1.レーザー加工とは?特徴、原理、仕組み
ここではレーザー加工について、概要と特徴、原理と仕組みについて解説します。
(1)レーザー加工とは?その特徴
レーザー加工は、高い密度とエネルギーを両立するレーザー光を素材に照射し、熱による融解や蒸発を利用して、切断や彫刻などの加工を行う技術です。
反射鏡やレンズ、光ファイバーなどを駆使して、レーザー光を照射したい一点に集めることで、高密度かつ高エネルギーの出力を可能にしています。また、レーザー光を照射する範囲を絞っているため、素材が熱によって変形するリスクが低いことも特徴です。
レーザー加工は、非接触加工に区別されており、接触加工では崩れてしまう弱い結合の素材や、厚みのない素材の加工にも対応できます。この性質により、切削や研削、プレス形成などの接触加工よりも多くの素材を加工できます。
(2)レーザー加工の原理と仕組み
レーザー加工は、レーザー発振器にて発生させたレーザー光を一点に集めて素材に照射し、融解、蒸発させています。レーザー光における誘導放出の原理を使用しています。誘導放出の原理は、電子レンジの加熱やスマートフォン、テレビの通信などに活用されています。
以下ではレーザー加工の原理と仕組みを紹介します。
①レーザー光を生成する
レーザー光は、レーザー発振器というレーザー光を生成する機構でつくられます。内部にあるレーザー媒質に励起(れいき)光源を照射することで励起・発振させ、誘導放出によってレーザー光(光子)を発生させます。
発振 | 物質が外部より何らかの刺激を受けて、レーザー光(光子)を発生させる現象 |
レーザー媒質 | ・発振を起こすために用いられる物質
・光を増幅させる性質を持っている ・固体、液体、気体、半導体などその種類は多岐にわたる ・代表例:気体のレーザー媒質であるCO2(炭酸ガス)、固体のレーザー媒質であるYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)など |
励起光源 | ・物質の励起を引き起こす外部刺激となる光源
・紫外線や可視光線、X線などが使用される |
励起とは、原子や分子が外部からの刺激を受けて、電子がひとつ外の軌道に外れることで、高エネルギー状態になる現象です。この原子や分子が高エネルギーを持っている様子を励起状態といいます。
励起状態とは反対に、電子が軌道内で安定している様子を基底(きてい)状態と呼びます。原子や分子のエネルギーが低い状態です。
レーザー媒質に励起光源を照射すると、レーザー媒質内部の原子や分子が励起光源に反応して、高エネルギーを持った励起状態となります。励起状態は、電子が外の軌道に外れていることで原子(分子)的に不安定な状態であるため維持するのが難しく、即座に安定している基底状態に戻ろうとします。この励起状態から基底状態に戻るときに、電子が持っていたエネルギーがレーザー光となって放出される現象が誘導放出です。
②レーザー光を集光して照射する
誘導放出によって物質から放出されたレーザー光は広く発散されます。この放出された光を一点に集光することで高密度・高エネルギーを両立するレーザー光になり、切断や溶接、彫刻などの有用な加工を実現しています。
レーザー光を一点に集光するには、ミラーやレンズ、光ファイバー、分光器などの集光装置を使用します。これらを用いてレーザー発振器から素材までレーザー光が通る光路を繋ぎます。レーザー光の種類によってミラーの反射率や、レンズの透過率が異なるため、可能な限り多くのレーザー光を無駄なく伝送できる集光装置の選定が必要です。
光ファイバーはミラーに比べて光の集光率が高く、産業用の集光装置において広く活用されています。また、ある一定の波長のレーザー光だけを抽出したいときは、モノクロメーターやポリクロメーターなどの分光器が利用されます。
集光装置によって一点に集光されたレーザー光は、出口のノズルから素材へ照射されます。
【参考記事】レーザー加工については以下の記事でも詳しく解説しています。
2.金属へのレーザー加工の種類と活用例
ここではレーザー加工で金属にどのような加工ができるのか解説します。
(1)切断と穴あけ
切断加工は、素材にレーザー光を照射し、熱エネルギーで素材を焼き切る加工です。
レーザー加工は刃物を使用する必要がないため、素材の切断面に見られるクラックと呼ばれる欠けや、金属加工の残留物であるバリの発生率を抑えることができます。
また、加工機に設計データを取り込むことで、刃物では難しい曲線や左右非対称な図形など、複雑で難解な形の切断が金属素材に対しても可能です。
たとえば、産業機器や自動車、医療機器など幅広い分野の機器に使用される板ばねやシムプレート(シム板)の加工にもレーザー加工が用いられています。
(2)溶接
溶接加工は、レーザー光で金属を溶かして他所と接合する加工方法です。
溶接は一般的に光エネルギーを用いたレーザー溶接と、電気エネルギーを用いたアーク溶接に分類されています。
画像引用:ウエルドツール
レーザー溶接 | 高密度・高エネルギーのレーザー光を用い、その熱で金属を溶かし、接合 |
アーク溶接 | ・空気中の放電現象(アーク放電)を利用
・発生する熱(アーク熱)で金属を溶かし、接合 |
レーザー溶接は、アーク溶接に比べてより微小な箇所の接合に適しています。
また、レーザー加工機の設定数値を調整することで、レーザー光のエネルギーや密度を自由に変更でき、溶ける温度が異なる金属同士の接合も可能です。
たとえば、自動車や電子部品の接合にレーザー溶接が活用されています。
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(3)彫刻
彫刻加工は、レーザー光によって模様や文字を深く彫る加工です。
素材に照射するレーザー光のエネルギーやスピードを変化させることで、彫刻の深さを自由にカスタマイズできます。彫刻の深さによって、模様の与えるイメージや、文字の印象など見え方が違ってきます。
金属素材では、たとえば腕時計や表彰盾、オリンピックのメダルなどにレーザー彫刻が活用されています。
(4)マーキング
マーキング加工は、レーザー光を素材に照射し、表面を焦がす、削る、変色させるなどして文字やロゴを印字する加工方法です。
彫刻加工との違いは、レーザー光の出力エネルギーと素材を彫る深さにあります。
マーキング加工は、素材の表面のみを変化させれば良いため、彫刻加工に比べて、短い時間でたくさんの加工ができます。
金属素材では、たとえば家や会社の表札の刻印や、機械部品のシリアル番号の印字などにマーキング加工が活用されています。
(5)表面加工
表面加工は、レーザー光を照射して素材の性質をより目的に合ったものに変える加工です。
代表的な表面加工には焼入れと合金化があります。
焼入れ | ・レーザー光を照射して金属表面の硬度を上げる加熱処理
・金属がねじれたり、ゆがむことを防止できる |
合金化 | ・素材の上に金属粉末を載せてレーザー光を照射し、合成金属を生成
・合金化すると、もとの金属よりも頑丈で耐熱性に優れた素材になる |
たとえば自動車部品やビル、高速道路、新幹線の材料などに表面加工(焼入れ・合金化)した金属が活用されています。
3.レーザー加工できる金属と加工例
金属製品は、強度が高く頑丈で、壊れにくいため様々な分野で活用されています。レーザー加工は切断や彫刻、溶接など多種多様な加工が可能ですが、どのような金属素材が対応しているのでしょうか。
(1)鉄
鉄は、最も一般に知られている金属で、強度が高く加工性に優れています。また、安価で手に入りやすく、使いやすいことで広く普及しています。
鉄を用いたレーザー加工品には、以下のようなものがあります。
・自動車や船などの乗り物の部品
・包丁やフォーク、スプーンなどのキッチン用品 ・ペンチやドライバー等の工具類など |
(2)ステンレス
ステンレスは、鉄にニッケルやクロムなどを添加して生成された合金で、熱や錆びに耐性を持ちます。また、鉄由来の合金であるため、より高い強度を持ちます。
ステンレスを用いたレーザー加工品には、以下のようなものがあります。
・キッチンのシンク
・電車の車両 ・PCや時計などの精密部品 ・食品加工機や貯蔵タンクなど |
耐水性が優れていることから、工場などの産業施設で使用されている機械の多くにステンレスが採用されています。
(3)チタン
チタンは、鉄よりも軽く、錆に強い金属です。また人間の身体に悪影響が少なく、低刺激とされています。
チタンを用いたレーザー加工品には、以下のようなものがあります。
・ゴルフクラブやテニスラケットなどのスポーツ用品
・飛行機やロケットなどの航空部品 ・ピアスや眼鏡等の装飾品 |
4.金属をレーザー加工するメリット
ここでは、金属をレーザー加工する際のメリットを解説します。
(1)加工素材を傷付けない
刃物を使用しない非接触の加工であるため、加工時のゆがみやクラックと呼ばれる損傷、欠けが接触加工と比較して少なく、滑らかな出来栄えになります。また、金属加工において発生する金属残留物であるバリが減少します。
バリはトゲのように鋭く、触れるとケガをする危険があるので、安全面でのメリットもあります。
(2)多彩な加工に対応できる
刃物では難しいとされる曲線や非対称な形の切断だけでなく、複雑・精密なデザインや文字の彫刻でも自由にカスタマイズできます。
レーザー光のエネルギーやスピードを変化させることで、多彩な加工に対応可能です。
(3)設定の調整が容易
レーザー加工機は、設計情報を取り込むことで、高度で難解な加工を実現しています。
レーザー光のエネルギーやスピード、素材との距離を変更することで、加工内容を自由にアレンジできます。
また、加工のために型取りやサイズを計測する必要がないため、手間が省けます。
(4)生産性が向上する
高出力のレーザー光は、強い熱エネルギーによって他の熱処理加工よりも速やかに素材を融解するため、生産性が向上が見込めます。
文字や日付、ロゴを印字するマーキング加工など、短い時間で多数の加工が可能で耐久性も高いため、作業効率が良くなります。
5.金属をレーザー加工デメリットや注意点
ここでは、金属をレーザー加工するさいのデメリットや注意点を解説します。
(1)加工に向かない金属がある
レーザー加工は素材の分厚さによって、レーザー光のエネルギーが集中する焦点距離の調整が必要です。この焦点距離よりも分厚い素材は、レーザー光のエネルギーが届かないため加工できません。
また、光の反射率が高い素材はレーザー光が跳ね返り、エネルギーが伝わりづらいため、レーザー加工には向いていません。
レーザー切断が難しい分厚い素材は、プラズマ切断で対応可能な場合があります。
【参考動画】プラズマ切断
(2)金属の種類で加工速度が変わる
レーザー加工機は、金属の種類により加工速度が変化します。
金属素材にレーザー光を照射して、熱エネルギーで溶かすため、金属それぞれの熱伝導率や、分厚さによって加工時間が異なるためです。
(3)熱で金属の色が変わる
レーザー光による熱エネルギーによって加工を施すため、照射した金属素材の色が変色する場合があります。熱エネルギーによる金属の変色を抑えるには、レーザー光の出力エネルギーや金属素材までのスペースの調整が必要です。
熱による変色が発生した場合は、加工後に研磨や表面処理を行います。
(4)費用がかさむ
産業用のレーザー加工機は、サイズが大きく、複雑な内部機構を有しています。専用の部品やメーカー、業者による定期的な保守点検が必要になるため、導入費用はもちろん、運用していくための費用も必要です。
6.レーザー加工機の種類
レーザー加工機は、用いるレーザー媒質の種類によって大別されています。このレーザー媒質は、物質によって異なる特性を持っているため、素材に適したレーザー加工機を選ぶことがポイントです。
ここではレーザー加工機の種類を解説します。
(1)CO2レーザー加工機
CO2レーザー加工機は、気体である炭酸ガス(CO2)をレーザー媒質としています。CO2レーザー加工機は費用効果が高く多くの素材に適しているため、レーザー加工機の中で最も広く普及しています。
CO2レーザー加工機では、以下のような非金属素材の加工が可能です。
・木材
・紙 ・アクリル ・布 ・皮 ・ガラス |
長い波長を持つため、アクリルやガラスなどの透明な素材も加工できることが大きな特長です。
一方で、アルミや銅などの高い光の反射率を持つ金属の加工には向いていません。
(2)YAGレーザー加工機
YAGレーザー加工機は、固体であるYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)をレーザー媒質としています。レーザー媒質のイットリウムとアルミニウムは金属、ガーネットは鉱物です。
YAGレーザーは、高密度・高エネルギーの出力により、光の反射率の高い金属も加工できるという特長があります。また、ゆがみや変形のリスクが抑えられるため、彫刻やマーキング、溶接加工にぴったりです。
美容や医療における分野でも活躍しており、シミやほくろのレーザー治療や、脱毛に活用されています。
(3)ファイバーレーザー加工機
ファイバーレーザー加工機は、固体である光ファイバー内部のイッテルビウムをレーザー媒質としています。イッテルビウムはレアアースに大別される金属で、鉱物に含有される非常に珍しい物質です。
ファイバーレーザーは、光ファイバーによりレーザー光を集めているため、エネルギー効率が非常に良く、高出力のレーザー光が抽出できます。レーザー光を制限された範囲へ的確に照射できるため、精度の高い加工が可能です。
ファイバーレーザー加工機は、レーザー光の排出口が小さく、高出力となるため微細な箇所の溶接に適しています。また、アーク溶接に比べて、素早く、簡単、綺麗に溶接ができるという利点もあります。ファイバーレーザーを用いた溶接については、こちらの関連動画をご覧ください。
【関連動画】
まとめ
本記事では、金属に施せるレーザー加工の種類や、加工可能な金属とその活用事例を紹介しました。また、金属にレーザー加工を施すメリットと注意点、代表的なレーザー加工機について解説しました。
レーザー加工機による金属の溶接なら、タッチパネルで簡単に設定することができ、初心者でも少しの練習でプロ並みの溶接が可能となるWELDTOOLのファイバーレーザー溶接機WT-FL1500Mがおすすめです。
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